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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)11013号 判決 1987年11月12日

原告

佐藤末男

被告

高橋真知子

ほか一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告高橋真知子(以下「被告高橋」という。)は、原告に対し、金四五一万〇六二四円及びこれに対する昭和五九年六月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告に対し、被告高橋に対する本判決が確定したときは、金四五一万〇六二四円及びこれに対する昭和五九年六月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五九年六月二三日午後九時三五分ころ

(二) 場所 東京都豊島区東池袋二丁目六三番先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車 自家用普通乗用自動車(足立三三そ六九九九号)

右運転者 被告高橋

(四) 被害車 事業用普通乗用自動車(足立五五か三二〇号)

右運転者 戸川照彬(以下「戸川」という。)

(五) 態様 原告を乗車させて走行していた被害車の左前ドア付近に加害車のフロントバンパー右角が接触し、両車は急停止した。被告高橋がハンドルを左に切つて加害車を後退させたところ、被害車の後部フエンダーに加害車のフロントバンパーが引つ掛かり、被害車は、加害車に引きずられて数メートル後退した。

2  責任原因

被告高橋は、加害車を自己のため運行の用に供していたものであるから、加害車の運行供用者として自動車損害賠償保障法三条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的損害を賠償する責任がある。また、被告会社は、被告高橋との間で加害車につき被告高橋を被保険者として自家用自動車保険契約(通称PAP)を締結したものであり、被告高橋の損害賠償責任の額が判決で確定することを停止条件として、原告は、被告会社に対し、右保険金を直接請求することができる。

3  原告の損害

(一) 原告は本件事故のために頚椎捻挫の傷害を受け、事故当日の昭和五九年六月二三日から昭和六〇年七月一一日に症状固定と診断されるまでの間、毎日、整形外科の病院に通院して治療を受けた。

(二) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(1) 治療費 金一六二万二五九〇円

(2) 休業損害 金六八三万四八七四円

原告は、個人経営で建設工事の下請けを営み、昭和五八年度に金六四九万六六九〇円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため事故当日の昭和五九年六月二三日から昭和六〇年七月一一日(症状固定日)までの間の三八四日間休業せざるをえず、金六八三万四八七四円の損害を被つた。

(3) 慰藉料 金一三〇万五六〇〇円

4  損害の填補 金五二五万二四四〇円

原告は、戸川の使用者である第二国際タクシー株式会社から、本件事故の賠償金として、金五二五万二四四〇円の支払を受けた。

よつて、原告は、被告に対し、前記3(二)の損害合計金九七六万三〇六四円から4の金五二五万二四四〇円を控除した残額金四五一万〇六二四円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年六月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実について、(五)は否認する。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実について、(一)のうち、原告が頚椎捻挫の傷害を負つたことは否認し、その余は知らない。(二)のうち、原告の昭和五八年度の収入額は否認し、その余は知らない。

4  同4の事実は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証、証人等目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1(一)ないし(四)の事実については、被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。そこで同(五)の事実について判断するに、成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証、証人戸川の証言により本件事故後の被害車の写真と認められる甲第二号証、証人戸川の証言及び被告高橋本人尋問の結果を総合すれば、本件事故の態様は以下のとおり認めることができ、これに反する証拠はない。

加害車と被害車はいずれも明治通りを池袋東口方面から王子方面に向けて進行していたが、本件交差点に差し掛かつた際、同交差点の王子側付近で警察官が別の交通事故の実況見分をしていたため渋滞しており、加害車は停止したり発進したりしながらのろのろと走行している状態であつた。

加害車は渋滞のため本件交差点の王子側付近で一旦停止したところ、被害車はその右側を加害車と並行して進行してきた。その時、加害車が発進したところ、そのフロントバンパー右角が被害車の左側ドア付近に接触し、加害車、被害車とも停止した(以下「第一接触」という。)。

そこで、接触している両車を離すために、まず被害車が後退して両車が平行な位置になるようにして停止した。次に加害車が後退を開始したが、その際、被告高橋がハンドルを左に切つたため、被害車の左側後部フエンダーに加害車のフロントバンパー右角が食い込む形になり、被害車は、加害車に引つ張られて、約一メートル移動した(以下「第二接触」という。)。

二  請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

三  そこで同3(一)(原告の受傷)の事実について判断するに、まず、第一接触は、前認定の態様自体から被害車の乗員に殆ど衝撃が加わらなかつたことが明らかであり、また、原告自身本人尋問においてこのときに受傷したことは供述していないのであつて、第一接触により原告が何等かの受傷をしたものと認めることはできない。次に、第二接触について検討するに、前認定の第二接触の態様は、加害車が発進した際、被害車と車体の一部が噛み合つていたため、加害車とともに被害車も移動したに過ぎないものであり、その際被害車に加わつた加速度は加害車の加速度とほぼ同程度のものであつたものと考えられるところ、加害車が特に急発進したことを窺わせる証拠はなく、右発進の際の加速度程度で頚椎捻挫が発症することは考え難いところである。また、証人戸川の証言及び被告高橋本人尋問の結果によれば、被害車の運転者戸川、加害車の運転者被告高橋、本件事故の際加害車に同乗していた清水英司、野原博には、いずれも本件事故により何等の傷害も生じなかつたことが認められるのであつて、以上によれば、原告が本件事故により受傷したものと認めることは困難である。

なお、原告は第二接触の際、被害車の左側窓枠に首をぶつけたことによつて受傷した旨供述するが、証人林香及び被告高橋の反対趣旨の供述に照らし、にわかに措信し難いところである。

また、甲第三号証の三(医師新井多喜男作成の診断書)には、原告のレントゲン線像において、正面像で右に側屈、前屈像で直線状硬直がある旨の記載が存するが、右レントゲン線像上の異常所見が本件事故によつて生じたものと認めるに足りる証拠はなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証(医師和田博夫作成の意見書)に照らすと右甲第三号証の三によつて原告が本件事故により受傷したものと認めることはできず、他に本件事故と因果関係のある原告の主張する受傷を認めるに足りる十分な証拠はない。

四  結論

以上の事実によれば、その余の点について判断するまでもなく、本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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